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鉄道員

 午前10時の映画祭で、懐かしい1956年のピエトロ・ジェルミ監督および主演の「鉄道員」

をおそらく40年ぶりくらいで見てきた。

 

 イタリア・ニューレアリズムの名作だったが、時間が経った今どう見えるのか楽しみだった。

 

 結論は、「そうだったなぁ」というところで止まってしまった。昔、見たときの生きた感情が全く

舞い戻っては来なかったのだ。

 

 どこで、だれと見たのかは覚えてはいないけれど、このモノクロの映画に、最初に見た時

には感動したものだ。

 

 ラストシーンの「ブゥオンジョルノ シニョーラ」と言う声と、階段を駆け下りていく靴音、

そして、朝の始業を告げる街に響くサイレンの野太い音、それが昔も、今回も心に残った。

このシーンのバックグラウンド・ミュージックも定番でよく覚えていた。

 

 しかし、ストーリーには全く感動しなかった。筋を知っていたからかもしれない。でも、二度目に見ても感動する映画が存在するのは確認済みだから、何かが違っているのだろう。

 

 この映画は、小学生の息子、サンドロの視点から見たパパァを中心とした回想の映画だ。この視点設定自体も、当時は新鮮だったのかもしれない。

 

 あらすじは、50歳のイタリア国鉄の特急の運転士(ローマ~フィレンツェ、ミラノ間)の家の物語だ。

 娘のできちゃった婚と、その孫になる子の死産、長男のぐうたらな生活、貧しいけれどいたずら盛りで明るいサンドロ。そして、夫を優しく見守る妻、そして、たくさんの飲み友達。

 

 自分の運転する列車へ青年が飛び込み自殺をした。この衝撃を受けた直後、ボローニャ駅で赤信号を見落とし、あわや正面衝突の大惨事のところを急ブレーキで何とか逃れる。格下げされて、入れ替え用SLの機関士。収入も激減。しかも、組合のストを破って「スト破り」のレッテルを張られる。家に居付かず、酒場を転々として飲み過ぎて体を壊す。

 サンドロに見つけられ家に帰る。何か月か療養してクリスマス。機関士の親友が、たくさんのともだちを連れてやってくる。長男も娘も戻ってくれる。しかし、このパーティーの後、自慢のギターを弾きながら、眠るように死んでいく。

 

 なんだ、そんなことって、人生にあるよなって思ったのかもしれない。それは僕が、同じように人生を長く生きてきたから、こんな出来事は当たり前になってしまって、感動しなかったのかもしれない。

 

 最初に見た時には、まだ若くて、いろんなことに対する感度がたかく、アンドレアの人生の悲喜劇を、自分にもこれから起こる可能性のある、幸、不幸のように感じて、感情移入をしていたのかもしれない。

 

 しかし、今回は自己投影を見ていたのかもしれない。生きてきた人生を振り返れば、「人生ってそんなもんさ!」と、うそぶいている自分がいるのかもしれない。そうであれば、感動しないのはよくわかる気がする。

 

 端的に言うと、自分の感情に鈍感になってきているのかもしれない。

 

 客席は僕よりも少し年齢の上の人が多かった気がする。懐かしさが、僕と同じように彼らを呼び寄せたにちがいない。

 

 1956年作成は、僕の青年期の10年くらい前だ。この時代に青年期を迎えた人たちが「化石」と呼ばれ始めるその年代に、僕自身も確実に近づいている。

 

 生のイタリア語を聴けたのは楽しかった。今のイタリア語より少しゆっくりな感じがした。時代のせいかも…。

 

 一つ発見があった。

 今、イタリア国鉄で使われている駅の「何番線」を意味するBinario(対になったもの:プラットホーム)が、映画ではMarciapiedi(歩道、プラットホームと言う意味もある)と呼ばれていた。

 立派な駅は別として、だいたいヨーロッパの駅のホームは、日本に比べて低いつくりだ。お客は、ほとんど線路と同じくらいの高さのプラットホームを歩いて、やっとこさ、客車に乗り込む。だから、Marciapiediも名は体を表していると言えそうだ。使用される単語も、時の流れとともに変わってきているようだ。

 

P.S.

イタリア語で思い出したけれど、いまNHKの第二放送(ラジオ)でやっているイタリア語講座でやっている、「やればできるさ」 Si può fare (監督Giulio Manfredonia)は、一昨年、イタリア映画祭で僕が見た作品だってことが分かりました。これは本当に良い喜劇でした。

 

<この写真はflickrから、Veletio Pirreraさんの ”Capostazione(駅長)“をお借りしました>

 

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http://creativecommons.org/licenses/by/2.0/deed.ja

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