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月を買った男 : L’uomo che compro la luna イタリア映画祭2020年

 

 

  リアルでは中止になった2020イタリア映画祭が、オンラインで行われた。数少ないチャンスとストリーミングで参加した。許される72時間いないで100分の映画を見るのは結構疲れる経験となりました。

 

 

 

 

 

まずは、映画祭の作品紹介を読んでもらおう。

 

 「ズッカ監督の第2作目。自身の生まれ故郷であるサルデーニャ島をテーマに、奇抜な設定と小気味よいリズムでスラップスティックな笑いが炸裂するコメディ。サルデーニャ島の誰かが月を所有したという未確認情報が世界中の諜報機関を駆け巡った。真偽を確認するために、イタリアの諜報機関はサルデーニャ島出身のケヴィンを島に送ることを決める。だが、彼は島の言葉や慣習を完全に忘れていて、島に溶け込むために特別なレッスンを受けることになるが…」

 

 

・[2018年/103分] 原題:L'uomo che comprò la luna

・監督:パオロ・ズッカ Paolo Zucca

・出演:ヤコポ・クッリン、ベニート・ウルグ、ステファノ・フレージ」

 

 

 

 

 

この映画のジャンルはコメディと言われているが、単なる喜劇ではない。実際には、「詩」のようなリズムがある。作家の発想が豊かで、普通では思いつかないシュールな世界を作り上げている。まるで古代人の歴史のような話だ。

 

 

 サルディニアはイタリアの中でも、ユニークな土地、文化的に地方色を持っている。サルディニアに住む人間はサルドと呼ばれ、サルディニアは、イタリアの自治州の一つとなっている。とりもなおさず、非常にユニークな人柄と社会、慣習そのものと重なった舞台になっている。

 

 舞台はこのサルディニア。ここに月を買った男が住んでいると、国際諜報機関からイタリア政府に連絡があった。アメリカが先に月に到達したのに、サルディニアの個人が月を持っているのは許せないとクレームが来たわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

物語

 

  物語の大部分の舞台は、サルディニア島のクックルマル 村という小さな村。

 

 ここに、調査のために派遣されるのは、自称ミラネーゼ、北イタリアの男と言っているケヴィン ピレッリ(本名はガヴィーノ)。本当はサルディニア生まれの男で、イタリア軍の空挺部隊の一人だ。

 

 彼はサルデーニャに派遣される前に、サルド、つまりサルディニア人としての気質、行動、生活様式を身につけるための特別な教育を受ける。ズマルギネス・バドーレという名前の先生から、1対1で厳しく教えられる。

 

  例えばサルド風じゃんけん、羊を扱うための口笛、酒の飲み方、歩き方、チーズの味わい方、レスリングの仕方、鉄砲のたしなみ、女性の取り扱いなどを、時間をかけて、いやいやながら学ぶ。実は、この先生は7歳の子供を殺してサルデーニャ島をにげだした経験 を持つ男だった。

 

 ケヴィンの ミッションは、月を持っているという男を見つけ出し、アメリカに返すということだ。 訓練の結果、サルド(サルディニア人)として合格と認定され、ピレッリはサルデーニャ島に派遣される。 目的のクックルマル村 に入り、島独自の生活様式を持つ人たちに、いろいろと試されている。辛い思いをして学んできたことを使って、サルドとしての証拠を見せることができた。そして村の仲間として認められる。

 

 しかしながら、強烈なリキュールを飲まされて、ある一人の男に自分のミッションを明かしてしまう。「月を持っている男」の問題を解決するために、サルデーニャに来たと。

 

 この話は村の重鎮の老人たちの耳に入り、なんとかこの男を始末しなくてはならないと村人たちは考えて彼を襲う。サルデーニャは、外部からの侵攻に悩まされた歴史を持つから、外部の人はスパイ化のように怪しいとうつるのだ。

 

 彼は月の持ち主を探すために、”マルヴァージョ”と呼ばれる月の風景に非常によく似た山地にたどり着く。 村人に追いかけられ、怪我をした彼は、砂漠のような平らなところで、ぶっ倒れてしまう。そこまで逃げられたのは、ロバの助け。3輪トラックに乗るロバの飼い主に発見され、助けられる。タネッドウッという彼は、海人で漁師。爆弾を使って魚を取るという乱暴な漁法を使っている。洞窟の中の家に住むテレーザの旦那である。

 

 テレーザの薬草のおかげで、彼は命を取り止める。 昔、タネッドウッ若者だったころ、テレーザを彼女の家から夜中に連れ出すとき、テレーザの親父に打たれて死にそうになった時に助けてくれた薬草だった。この薬草をテレーザに教えてくれたのは、月だった。彼らにとって月は母である。さらにケヴィンは魚を食べて元気になる 。

 

 問題の月だが、妻テレーザにタネッドウッが月を 贈ったという事実が語られる。しかし最初に月に到達したアメリカのアームストロングに10%の所有権があるとも言う。先に土地登記をしたのは、自分だとタネットウッは主張する。 土地登記後、50年間もどこからも文句が出ないから、自分の物だと言はっている。

 

  国際条約では、月はどこの国の所有でもないということになっていると、ケヴィンは彼に言う。しかし、彼は国ではない、個人なのだから問題はないと言い切る。国際条約は国が従うものだから、個人の自分は所有できるというロジックだ。アームストロングに10%を譲るように連絡を取ったけれども、返事は来ないとのことだ。月は、3億ヘクタールもあるから、まあ十分だ。妻にはアームストトロングの話は内緒だという。

 

 ケヴィンは本部に連絡する。アメリカには返しそうにもないと。

 

村の長老の指示を受けた村人は、ケヴィンを殺しに集団でやってくる。イタリア国は、ケヴィンをゴムボートで助けにくる。軍隊が乗っていて、武器的には軍の方が強そう。

 

  ケヴィンは戦いを止めようと立ちはだかる。軍はアメリカの潜水艦の応援を頼んだ。大きな潜水艦がヌッと浮上し、軍のゴムボートに並んで睨みを利かせる。

 

 

 その時、テレーザが笛を持って、砂漠のような山頂で笛を吹き始める。すると大きな月がその山の向こう側から、上がってくる。 月の引力で海面が下がり、ゴムボートも潜水艦も砂地に横たわる形になってしまう。 もう戦えない。更には大きな津波が岸へと襲ってくる。 ゴムボートの連中は逃げ惑い、島に上がろうとする。そこで、テレーザは高潮をおさめ、そこで戦いは終わる。

 

 村人たちは引き上げて行く時に、テレーザに彼をどうすると訊く。テレーザは、彼は私の客人ですと答える。

 

 物語は終り (私の和訳だから、正確ではない部分もあるかもしれない。お許しを)

 

 タネッドウッはある意味、詩人だ。テレーザはこの物語のヒロインだ。月を自由に操ることができるスーパーパワーを持っている。

 

 この物語のシンボルとしては、月と月面のような山、そしてロバと言えると思う。 月の世界のような荒涼とした岩と砂の山。これもこの物語のユニークな状況を作り出している。

 

 見終わって感じるのは、この物語は決してコメディではなく、日本人には発想不可能な物語であり、詩であると思う。マルヴァージョ≒ 月の世界には、亡くなった正義の人たちが何世代にもわたって暮らしている。正義の人は必ず、この月世界に行けるとサルドは信じている。

 

 ネットで調べてみると、サルディニアはイタリア本国とは別の歴史と風土と人種と文化を持った場所であるという。 それをうまく使った映画だとも言える。サルディーニァは、本土のイタリアとは全く違った歴史を持つのだと分かった。 BC.8世紀ぐらいからフェニキア人、カルタゴ人、ローマ人、アフリカのヴァンダル人、サラセン、東ローマ帝国と目まぐるしく支配者が変わってきた島だった。それだから、イタリア本土とは違った文化が今に伝わっているのだろうと推測できる。

 

 

 今年(2020年)は、COVID-19で「イタリア映画祭」は見られないとあきらめていたが、ストリーミングとはいえ、最後の最後に「月を買った男」を見ることができた。おそらく、これが唯一の、今年の重要な出来事になるだろうと思う。素晴らしい時間だった。

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